夏休みが終わってしまった。敬老の日の祝日にあわせてまさにこれから夏休み、という方もいらっしゃると思うが、海外旅行で円高の恩恵を十二分に活用された方も多いのでないかと思われる。この円高、個人として旅行するには大変ありがたいのだが、多くの日本企業にとっては頭の痛いものである。
多くの日本企業が円高に苦しんでいるが、世界に目を向けてみると、欧州はギリシア危機を発端とする欧州経済危機から抜け出せずに苦しんでおり、米国もリーマンショックから完全復活、とはいかないようである。また、好調と思われていた新興国の経済も、欧米先進国経済の低迷の影響を受けて失速している感がある。
このような状況のなかで、世界のあらゆる企業がコスト削減や新たなビジネスチャンスを求めてグローバルな展開を推し進めている。それに伴い、人材の異動も増加し、また、異動する人材の派遣パターンや人材像そのものが多様化する傾向にある。マーサーでは、“Benefits Survey for Expatriates and Internationally Mobile Employees”というサーベイを実施し、グローバル企業が海外駐在員に提供する福利厚生に関するレポートを発表した。
この調査には、288の多国籍企業が回答しており、参加企業の内訳は北米58%、EU21%、アジア・太平洋15%となっている。調査では派遣形態の変化や、それに伴う福利厚生制度の変化が明らかになった。
2年前の調査と比較して、「グローバル・ノマド」と呼ばれる、特定の派遣元を持たずに様々な国を異動して働く派遣形態が、全体の6%から10%に増加したことが判明した。また、従来の派遣者よりも長期間海外に派遣されるケースが増加している。こういった派遣形態の変化は、福利厚生にも影響を与えている。
63%の企業が本国の退職金制度を継続しているが、グローバル・ノマドの増加は、派遣元の制度の継続を困難にしており、12% の企業がInternational Retirement Planを提供している。この傾向は、今後も増加すると予測される。
一方、医療費の保障に関しては、98%の企業が民間の保険会社が提供するプランを提供している。保健制度や医療水準は国ごとに大きく異なるため、すべての拠点に同水準の医療サービスを提供することが課題となっている。そうしたなか、半数以上の企業が前回の保険更新時に保険料が6% 以上増加した、と回答している。
これまでの日本企業は、自社の給与や福利厚生を考える際、当然日本国内の、それも同業他社、もしくはグループ内企業と比較することが多かったのではないか、と思われる。ところが、これだけ人材の流動化とビジネスのグローバル化が進むと、人材の獲得競争もビジネスも、日本企業との競争力だけを考慮していては世界から取り残されてしまう可能性がある。
海外派遣者の処遇についても、今までは日本から派遣される日本人の処遇を中心に考えてきたと思われるが、本社の知らないところで欧州や北米を派遣元として、域内異動や大陸間異動の実績が積みあがり、本社が海外で採用した優秀な人材を日本本社に受け入れよう、または、他の拠点に異動させようと処遇の検討をし始めて、初めて、すでに海外でも国をまたぐ異動が進んでおり、それぞれポリシーが確立されていることが判明するケースも多々ある。こうなってくると、本社主導で国際間異動のポリシーを新たに策定しようとしても、まずはそれぞれのポリシーの現状把握から、となり、拠点ごとの考え方も錯綜してスタート地点に立つまでに大変な労力が必要になってしまうことも多々ある。
国際間異動のポリシーを策定する、となった際に、ではどこをベンチマークすれば良いのか。当然、日本企業のみをベンチマークしていたのでは、日本以外の拠点から異動する人材にとって的外れな制度になってしまう恐れがある。
例えば、駐在員の手当のなかで最も一般的な海外勤務手当(いわゆるMobility Premium)やハードシップ手当(Hardship Allowance)について、日本企業は金額で設定する企業が多い一方、欧米では割合で決定する傾向がある。
また、住宅の補助については、日本では派遣先の住居費は上限付の全額会社負担、とするのが一般的だが、北米と欧州でも考え方が異なり、北米企業は本国でのみなし住居費と派遣先での住居費の差額を手当として支給するのが一般的である一方、欧州企業は日本と同じように派遣先ではFree Housingを提供する、という考え方が一般的となっている。
家族に対するサポートも、日本では単身赴任であれば別居手当や単身赴任手当を、帯同であれば家族に対してもハードシップ手当などを支給することがあるが、そもそも単身赴任、という考え方が一般的でない欧米では、家族のサポート、となると、むしろ赴任前に現地視察に同行させる、といったことや、配偶者の派遣先での就職サポートなどが対象となる。ちなみにこの「配偶者」、企業の例ではないが、とある英国の政府機関では「生計を一にするパートナーで、性別は問わない」として同性のカップルを認めるケースもあり、今後は「パートナー」の定義を見直すことから始める必要があるかもしれない。
海外派遣者や派遣パターンの多様化、海外でも活躍できる人材の育成に悩むのは、日本企業だけではない。競争相手としてどこをベンチマークすべきか、視点を広げて世界にも目を向けてみてはいかがだろうか。
執筆者: 和田 裕子 (インフォメーション・プロダクト・ソリューションズ)
コンサルタント
略歴
日系商社を経て現職。
海外派遣に関する給与・福利厚生データの調査・分析、ワークショップセミナー等クライアント向けのサービス、および、海外駐在員給与体系構築・規程策定等に関するアドバイスを提供。
国際基督教大学(ICU)教養学部卒業。
執筆コラム
気になる存在
スタートラインを変えてみよう ~多様性に富んだ未来を想像してみませんか?