アフターコロナ:テレワークから職場勤務に戻るアメリカ企業(2)

Business Brainstorming Graph Chart Report Data Concept
2021.06.30

  前回、アメリカの企業でオフィス再開が進んでいることを報告した。しかし、オフィス再開を通知した企業では、テレワークを続けたい社員から反発が出ているところもある。今回は、オフィス再開に対する社員の反応、テレワークに対する考え方を中心に報告する。

就労者の反応


 アメリカでは今春、大企業を中心にオフィス再開が次々に発表されたが、出勤したくない社員との攻防を繰り広げている企業もある。5月には、出勤再開を巡った社内騒動が全米のニュースになったケースもある。出社を嫌がる社員に頭を悩ませた雑誌出版社のCEOが、テレワークを続け出社しない社員に対し、ワシントンポスト紙に下記のような「意見(op-ed)」を掲載したのが発端だ。

テレワークを続け、たまに出社するだけにしたいという普通のオフィスワーカーには憂慮する…社員は出社しない場合のリスクを理解してほしい…あまり出社しない社員は、正社員から契約社員に降格することもあり得る。契約社員は時間ベースでなく成果ベースでの報酬払いになることを心得ていてほしい。

 すると、すぐにツイッターで社員からの抗議が相次ぎ、編集スタッフがストライキを行なったため、その日のオンライン出版は行われない事態となった。結局、CEOは謝罪を余儀なくされ、社員を降格したり、福利厚生を削減することはないと釈明した。また将来、テレワークという選択肢はないが、パンデミックが続く限り、必要な社員には柔軟に対応することを確約した。

 しかし、同社では6月末に、編集スタッフが組合を結成すると発表しており、正当な給与や健康的な社風を求めていく構えだという。出版業界での組合の動きは前からあったものの、今回のテレワークに対する騒動が影響を与えたことは否めないだろう。職場勤務を促す企業に対する社員の反発は、IT業界でも見られる。6月に入り、アップルのCEOが、9月から週に3日(月火木)出社するように社員に通知したところ、※1 直ちに社員から反発が起こった。2日後には社員たちから、もっと柔軟な働き方を求める、下記の要旨の嘆願書が送られた。すでに退職を決めた社員もいるという。

昨年、会社は社員の声に耳を傾けるどころか、積極的に無視をした。<中略>テレワークを続けたい社員には続けさせてほしい。どういう働き方をしたいのか(出社かテレワークかハイブリッドか)は、個人やチーム、職種によって最適の方法を各自に決めさせてほしい。<中略>テレワークに関し、各チームに決定権を与えてほしい。

 1月から2月にかけて5ヵ国のフルタイム社員4500人以上を対象に行われたオンライン調査では、回答者の56%が「出勤再開に対し、勤務先は社員のフィードバックを求めていない」と答えている(40%はフィードバックを得ていた)。※2 社員の意向を無視し、一方的にオフィスに戻れということで、社員に上司や勤務先に対する不信感を募らせる結果となっている。また、出勤再開に関して、「なぜそうした方針に決まったのか、説明がない」というのも、社員らの不満の種となっている。こうした中、優秀な人材をキープするためにも、社員の声に耳を傾け、テレワークに関する方針を変更する企業も出てきている。

※1.上司の許可を得れば、年に2週間までテレワーク可能。※2.limeade:“The New Normal: Facing the Challenges of Returning to Work”2021年4月。フランス、ドイツ、イギリス、オーストラリア、アメリカの17の業界の社員500人以上の企業の各国最低500人とマネジャー200人以上が対象。回答者の68%が25歳~45歳。

  

・社員の声を反映

 アマゾンでは3月に、今秋には職場勤務を再開し、「もっとも効果的に共に発明し、協働し、学ぶために」オフィス中心の勤務に戻ると発表していた。しかし6月になって、週に3日出勤が新たな基本勤務形態となると社員に通知している。週3日未満の出勤を希望する社員は、「例外扱い」の申請をし、許可が下りればテレワーカー扱いとなり、社内で専用のデスクはなくなる。

 新たな勤務形態は、9月7日の週から始まり、アメリカをはじめ、イギリス、イスラエル、オセアニア、中東のオフィスが対象となる。同社のオフィスの大半は、すでに再開しており、社員らは徐々に出勤を始めているという。フェイスブックも、5月の時点で、段階的に出社人数を増やし、9月には全員出社をうたっていたが、6月に入り、テレワークが可能なフルタイム社員は全員、フルリモートを申請することが可能となるよう、方針を転換した。

 また、6月中旬から、海外でのテレワークも可能となり、アメリカの社員はカナダで、ヨーロッパの社員はイギリスでテレワークができるようになる。また、2022年1月より、ヨーロッパの7ヵ国の間で転勤も可能となる。一方、職場勤務を希望する社員は、少なくとも勤務時間の半分は出社することが義務づけられる。また、社員間の交流を促すため、社内での集まりも行う予定だという。

  

テレワークを続けたい社員

 アメリカの調査で、3月から5月にかけて2000人以上に「もし自分で決められるなら、どのような勤務形態を選ぶか」と聞いたところ、40%が「永久にテレワーク」、35%が「テレワークと職場勤務併用のハイブリッド」、25%が「永久に職場勤務」と回答した。※3 つまり、75%が、週に数日はテレワークを希望しているということである。

希望する勤務形態(アメリカ)
usatoday
(USA Today/Harris Poll Survey)


 一方、同調査では、出勤再開に対する懸念として、「テレワークで享受した柔軟性を失うこと」が一番多く(36%)あげられた。次に「コロナ禍前のルーティンに戻ること」(32%)、「また人に囲まれること」(31%)、「ワクチン未接種の人に接すること」(30%)が続いた。さらに、回答者の多くが社会的不安を指摘しており、35%が「世間話をしないといけない」、28%が「人とのつきあい方を忘れてしまった」ことを不安に思っている。アメリカ心理学協会のアンケート調査でも、出勤再開で一番不安なのは「同僚や顧客と対面でやりとりすること」だという結果が出ている。 出勤再開を促進するには、社員が抱える、こうした不安への対処も必要だろう。そうしなければ、優秀な人材を失う事態となりかねない。

 5月に1000人を対象に行われた別のアンケート調査では、39%が「職場に戻るくらいなら仕事を辞める」と回答している。この割合は、ミレニアル世代(1981年~1996年生まれ)やZ世代(1997年以降生まれ)の間では、49%にのぼっている。※4 中には、「見えない=仕事をしていない、というのは、ベビーブーム世代によるパワープレイだ」という声も聞かれ、上の世代への不信感もうかがえる。

 実際に、すでに引っ越しをしてしまっていて、出勤ができなかったり、職場勤務を命じられたため、会社を辞めて、フリーランスになったという就労者もいる。今年に入り、フルリモート職として入社したところが、対面ミーティングが増えたため、退職したというケースもある。ヘッドハントされて「どうしたら当社に来てもらえるか?」と聞かれ、「フルリモート」という条件を提示して転職したという例もあり、テレワークは、今後も優秀な人材を獲得、キープする手段として使われそうである。

※3.USA Today/Harris Poll Survey: “The DNA of work has changed’: Many Americans want to keep working from home after the COVID-19 crisis passes” 2021年5月21日 ※4.Bloomberg/Morning Consult: “Employees are quitting instead of giving” 2021年6月1日。

  

子育て世代

 子供を抱える世帯では、テレワークを続けたいという割合は、さらに高い。18歳以下の子供を持つ就労者1100人以上に対し行ったアンケート調査では、61%が「フルリモートで働きたい」と答え、「テレワークを続けられなければ仕事を辞める」という回答者は62%にのぼっている。※5 12歳未満の子供を持つ家庭では、週に5日、在宅勤務をする女性は男性より50%多いという結果もある。昨年、コロナ下で、アメリカでは300万人近くの女性が労働市場から脱落している。仕事を失った女性だけでなく、子供の学校がリモート授業になったり、託児所が閉鎖したりで、子供の世話をするために退職を強いられた女性たちは少なくない。

  

職場勤務を希望する人たちも

  一方、「もう在宅勤務はウンザリ」という就労者も、少なからず存在する。上述の調査でも、「永久に職場勤務をしたい」という人は25%で、「週に何日かは出社する」というハイブリッド型を希望する人(35%)も含めれば、「少なくとも週に何日かは出社したい」という人は60%にのぼる。今年3月に日本を含む10ヵ国のオフィスワーカー3300人を対象に行われた調査では、パンデミック終息後に希望する在宅勤務日数は、週に平均1.5日であった。※6 これは、昨年4月の調査時の2日に比べ、0.5日減少している。回答者の33%は「一日も在宅勤務はしたくない」と答えており、これは、昨年4月に比べ5ポイント上昇している。「在宅勤務は週に一日未満」を希望する人も含めると、在宅勤務を敬遠する人は42%にのぼる。

パンデミック終息後、在宅勤務を希望する頻度(10ヵ国)
JLL(JLL)

 かつ「オフィスよりも自宅の方が生産的だと感じる」と答えた人は、昨年4月の48%に比べ、今年3月には37%に減少している。テレワークが一年続く中、就労者の間で在宅勤務による疲れが顕れているといっていいだろう。また、61%が「職場での人との直の接触を求めている」と答え、毎週のルーティーンの中で一番恋しいと思うものとして、52%が「違った光景(環境の変化)」と答えている。この割合は、単身者の中では58%で、小さな子供のいる就労者の43%に比べ9ポイント高い結果となっている。「職場勤務は旧態依然で、テレワークが進化したスタイル」という風潮の中、「出社したいと思っている自分は例外、おかしいのではないか」という人もおり、職場勤務希望者はなかなか声を上げにくいようである。

 また、いったん出社すると「同僚と談笑するのは楽しい」と実感したり、「在宅勤務中、自分がどれだけ社会から隔離されていたかを悟った」という声も聞かれ、職場に戻ると考え方も変わる可能性がある。在宅勤務における問題として、孤独、鬱、ドラッグ中毒、座りっぱなしで運動不足などが注目されているが、孤独がテレワーカーが直面する最大の課題と考えられている。ただし、回答者の半数以上がハイブリッド型を希望していることは間違いなく、88%が「将来、さらに柔軟な勤務時間」を望んでいる。

※5.“FlexJobs Survey: Working Parents Want Remote Work”2021年5月。回答者の57%がアメリカ、4%がカナダ、29%が両国以外。75%が女性。※6.JLL “Worker Preferences Barometer” 2021年5月。アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、中国、インド、シンガポール、オーストラリア、日本の10ヵ国が対象。各国の回答者約300人。70%が大企業、30%が中小企業勤務。2020年4月、10月に続く調査。

  

・テレワークは若い層に不利

 上記の10ヵ国を対象とした調査で、家庭のある就労者よりも単身者の間で「違った光景(環境の変化)」を求める割合が高いという結果だったが、今年1月に、日本を含む31ヵ国の3万人以上を対象に行われた調査でも、独身者の67%が「在宅勤務で(うまくやっているというよりも)何とかやっている、もがいている」と回答している。さらに、入社1年未満の社員(64%)やZ世代(60%)の間でも、「在宅勤務でもがいている」という回答は、高い割合となっている。一方、経営陣で、そう答えたのは39%のみで、61%が「在宅勤務で生き生きと仕事をしている」と答えている。※7

 すでに自分の仕事に慣れていて、会社の風土を理解し、上司や同僚とも顔馴染みであれば、テレワークでも生産性を保ちやすいだろう。精神面だけでなく、単身者の方が狭いアパートに住んでいる割合が高く、最適でない環境での労働を強いられているという面もある。

 アメリカでも、若い社員、初級レベルの社員の型が「在宅勤務であまり生産的と感じていない」という調査結果がある。昨年11月から12月にかけてアメリカで行なわれた調査では、133人の経営陣、1200人のオフィスワーカーに在宅勤務ついて尋ねたところ、勤務年数が5年未満の回答者の34%が「テレワークでは、(職場勤務に比べ)生産的でない」と答えており、回答者全体(23%)に比べ、11ポイント高くなっている。また、勤務年数が5年未満の回答者の30%が「週に一日以上テレワークをしたくない」と答え、勤務年数の長い回答者(20%)に比べ10ポイント高い結果であった。※8 勤務年数が長い就労者に比べ、勤務年数が少ない回答者の方が、上司と対面で会ったり、会社の研修プログラムに参加する価値を見出しているというころだろう。

 ヨーロッパでも、シャープが行った6000人を対象にしたアンケート調査で、21~30歳の半数以上が「同僚と実際に会って、働くことが重要である」と答え、60%近くが「近代的なオフィス環境で働くことが、この一年で一層重要になった」とも答えている。※9 30歳未満の回答者が「テレワークでより生産的になった」というものの、45歳以下の回答者の半数が「長期的には、研修やキャリア機会のないことを不安に思う」と答えている。自身のキャリアを考えたときに、出社して研修を受けたり、人間関係を構築することが重要だということだろう。

 前回、紹介したように、大手投資銀行が「先輩の横で働きながら学ぶ見習い制度にテレワークは適さない」※10 「今年の新卒には、何としてもリモートインターンシップ、リモート入社は避けたい」と発言しているように、右も左もわからない新入社員に、初めからテレワークというのはハードルが高いだろう。そばで先輩や同僚を見て学ぶということもできなければ、顧客先を訪問する上司や先輩に「一緒に行くか?」と声をかけてもらうといったこともない。

 以前報告したように、コロナ下でリモート採用が一気に進む中、採用活動をバーチャルで行なうことは問題ないにしろ、オンボーディング(新人研修を含め、新入社員・メンバーが仕事に慣れるのをサポートする一連のプロセス)をいかに効果的にバーチャルで行うかが、多くの企業にとって課題となっている。

 ただしこれは、若い層がテレワークを嫌って、毎日、出社したいと言っているわけではない。キャリアのためにも、出社してスキルやビジネス習慣を学ぶ、人間関係を構築することが重要で、テレワークと併用で「出社もしたい」ということである。昨年11月から今年2月にかけて、10ヵ国の大企業に勤めるミレニアル世代1250人とZ世代750人を対象に行った調査では、「フルタイムで出社したい」というのは10%のみで、61%がハイブリッド型を希望している。※11

30代以下の社員が希望する勤務形態(10ヵ国)
Citrix(Citrix)

 なお、生産性に関しては、テレワークによって「生産性は向上した、変わらなかった」という声は多いが、テレワークが始まってから労働時間が増えているため、正確には「成果は落ちなかった」ということだという指摘もある。

  

・高い離職率

 また、パンデミック勃発後、入社した新入社員の間での離職率が高いことも報告されている。とくにコロナ禍でリモートで雇われ、同僚と対面したことのない社員らの間で高くなっている。リモートオンリーの世界では、帰属意識が育ちにくいということだろう。コロナ下で2000人を雇ったデトロイトの金融機関では、一度も出社したことのない社員の間で離職率が一番高いという。バーチャルの環境では、既存の人間関係を維持することはできても、新たな人間関係を構築するのは難しいということのようだ。

 以上、見てきたように、今後、多くのアメリカ企業で、週の何日かはテレワークを許可するハイブリッド型が主流になることは間違いないだろう。週に数日は出勤することで、上記のようなマイナス面は避けられるのかもしれない。ただし、ハイブリッド型にも課題はいくつかあり、各企業とも最適な形を求めて試行錯誤しているところだ。次回は、ハイブリッド型の導入について報告したい。

※7. マイクロソフト ”The Workd Trend Index”日本を含むアジア、アメリカ、ヨーロッパの3万人以上のフルタイム社員または自営業者が対象。回答者には、各国から少なくとも1000人以上のフルタイム社員を含む。※8.“PwC’s US Remote Work Survey,” 2021年1月。回答者の業界内訳は、金融業界(43%)、IT・メディア・通信(31%)、消費者製品(23%)。※9.Bloomberg: “Fed-Up Young Workers Fear They Need Offices to Save Their Careers” 2021年6月4日 ※10.6月に入り、モーガンスタンレーも、CEOが「当社は職場勤務をする会社だ。研修し、インターンが学び、人材開発が行われ、Zoom会議では得られない、キャリア成功のために必要なsoft cuesが構築されるのは社内」と発言し、9月頭までにはほぼ全社員が職場勤務に戻る予定だ。テレワークを続ける社員は減給も示唆されている。※11.Citrix “The Born Digital Effect”2021年5月。フランス、ドイツ、オランダ、イギリス、メキシコ、アメリカ、UAE、中国、インド、日本の様々な業界の大企業で働くミレニアル世代1250人とZ世代750人が対象。

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。