アメリカでIT企業を中心に大量の人員整理が始まっているのは、日本でも報道されている。昨年11月にメタが1万1000人の人員整理をしたのを皮切りに、堰を切ったように、他の企業も次々に整理を始めた。各社、人員整理を発表するタイミングを待っていたようだ。
昨年同月、ツイッターが大量の解雇を行い、その後も組織のスリム化を続けていることも、他社に「より少ない人材でもやっていける」ということを示す結果となっている。
アメリカ国外も含め、IT企業では、昨年、16万人、今年1月には10万人が解雇されている。
メタでは、(社名改名前の)2021年にすでに、より意欲的な目標を設定して、辞めたい社員には退職を促し、「フェイスブックは、今より社員が少ない方がいい会社になる」などと発言していた。昨年から新規採用は凍結しているが、CEOが「コストを引き締める」「数々のチームが縮小する」「少ないリソースでやりくりしなければならない」といったメッセージを発し続けている。
同社では、2022年、初めて広告収入が減少した。TikTokの脅威の前に、次世代のユーザを獲得できておらず、将来性が疑問視されており、株価は2020年から6割下落した状態だ。
拡大する人員整理
Big Tech (FAAMG)以外でも人員整理は広がっており、昨年のオラクルに加え、シスコ(4,100人)、IBM(3,900人)、SAP(3,000人)、デル(6,500人)、ペイパル(2,000人)などでも行われている。米ヤフーでは、Yahoo for Business部門の半数(1,600人)以上が解雇される。その他、人員整理は、日本では知られていない数々のスタートアップや中小IT関連企業でも行われている。
さらに、人員整理はIT業界以外にも広がっている。ディズニーやマッキンゼーの大量解雇は、日本でも報じられているが、3M(2,500人)やダウケミカル(2,500人)などの製造業もでも行われている。オランダ本社のフィリップでも、今年、3,000人を削減し、2025年までに6,000人を削減する予定だ。
ボーイングも2,500人削減するが、製造部門ではなく、主に財務と人事のホワイトカラー職で、その3分の1をインドにアウトソースするという。なお、同社では、昨年、2万2,000人を採用しており、今年も1万人採用する予定である。(つまり、不要な人材は解雇するが、必要な人材は採用を続けるということだ。)
FedExでは、昨年、新規採用を凍結し、90拠点を閉鎖すると発表した。今月、全社員(55万人近く)の10%を解雇すると発表した。
金融業界では、不動産市場の減速により、昨年から住宅ローン部門は各行人員整理を行っているが、今年に入り、投資銀行も大幅な人員削減を発表している。昨年のモーガンスタンレー(1,600人)に続き、先月、ゴールドマンサックスが3,200人の解雇を発表した。これは、2008年の金融危機から最大規模の人員整理である。
2022年、純利益がほぼ半減し、今後の見通しも暗いのが要因である。ただし、投資銀行では、毎年、社員の1~5%の削減を行なうが、パンデミックの間、ゴールドマンサックスでは人事考査や解雇を一時休止したことから、過去2年分の人員整理をまとめて行うものだとも言える。
なお、1月に解雇された社員はボーナスを支給されず、CEOの2022年の報酬は、前年比30%削減されている。
広告収入減少の打撃を直接受けているのがメディアである。Buzzfeedなどのデジタルメディアだけでなく、ウォールストリート・ジャーナルなどを所有するNews Corpでは、昨年度、売上が7%下落し、先月、社員の5%を解雇すると発表した。つい先週は、米公共放送のNPRが社員10%の解雇を発表した。広告市場が回復する兆しは、まったく見られないという。
小売業界でも、デパートやスーパー、Eコマースなどで人員削減が始まっているが、どこも人手不足の続く販売現場のスタッフを削減することはなく、本社のホワイトカラーが解雇されている。
労働市場は、今後、さらに弱まると見られている。連銀は、失業率は、まったく心配していないどころか、労働市場の需要の低下をさせたい狙いだ。
今、大量に人員整理が起きているのは、主に高給の職種で、今も採用が活発なのは、ホスピタリティ業界など低賃金分野であるため、結果として、労働市場全体として賃金が低下する見込みだ。
人員整理の理由
各社が大量の人員整理をしている背景には、下記の要因がある。
・過剰雇用
コロナで経済が収縮した後、巣ごもりのためにEコマースなどの需要が急増し、アメリカでは、2020年から2022年にかけて経済が成長した。
たとえばZoomでは、パンデミック中にオンラインミーティングの需要が急増したため、社員を3倍に増やしていた。しかし、今年2月に全社員の15%をレイオフすると発表している。
2019年から2022年にかけて、Big Techの社員数は、売上と同じペースで増え、急速に社員を増やしたのが、今回の大量解雇の第一の要因である。一部の企業では、こうしてコロナ特需の恩恵を受けたが、それが終焉したといえる。アメリカでは、「コロナ(パンデミック)バブルが崩壊した」という声もある。
一方、アップルでは、過去2年、過剰採用をしなかったために、今回、人員整理はしていない。2019年から売上を52%伸ばしながらも、社員数の伸びは19%に抑えている。また、営業経費も、他社より低く抑えてきた。
過剰採用を行なった企業では、コスト体質を一新し、人材と資金を一番の優先事項に投入することを投資家や株式市場に求められているが、今回の規模の人員整理では不十分だと考えられている。たとえば、グーグルでは、1万2,000人の解雇で、粗利が1%ほど伸びるだけで、利益は、ほとんど変わらない。
そのため、今後3〜6カ月で、Big Techでは、さらに15~20%の人員削減があると言われている。
・経済減速
上述のように、オンライン、オフラインの広告ともに、広告収入が減少しており、企業はコスト削減を求められている。人員整理を行なっている企業の多くが利益を出しているが、今年、世界的に不況になると予想されている中、それに備えた態勢が必要とされている。
・効率追及
メタでは、2023年は「効率の年」として、効率を重視すると宣言している。株主に対して「昨年の人員整理は、効率重視の始まりで、終わりではない」とも発言している。(つまり、さらなる解雇が続く。)
ツイッターでは人員を半減させ、さらにスリム化を目指していることから、より少ない人材でもやっていけることを示している。株主から「ツイッターにできることが、なぜできない?」と詰め寄られることもあるだろう。
・戦略修正
一部の部門では人材を削減するものの、他の部門では採用を続けるという企業もあり、経済や市場に合わせ、戦略の見直しを行なっているケースもある。これも、不況に備えた態勢づくりの面もあるだろう。
解雇されている人材
・低評価の社員
メタでは、管理職らは、人事考査で部署人員の最低15%を目標未達成の「改善要」の低評価にするよう指示を受けた 昨年は、年次評価で、いつもより倍の社員を「低評価」にするように指示されたともいう。担当チームを解散し、自分も再就職先を探すように言われた管理職もいる。
自動消滅の画像投稿SNS、SnapchatのSnapでも、昨夏、管理職はスタッフの10%を「低評価」に評価するように言われたが、8月にはフルタイム社員の20%が解雇された。複数のプロジェクトや買収したアプリが廃止されたりもしている。
通常であれば、問題のない評価を受けていても、このように強制的に低評価をつけられることもあり、「自分は人事評価が悪くないから大丈夫」ということはないということだ。
・新人・勤務年数の浅い社員
通常、アメリカでは、レイオフといえば、勤務年数の少ない社員からクビを切られる。(※1) たとえば、筆者の知人(中年)は、商業銀行で勤務しているが、再就職しても1~2年ごとにレイオフされるため、どこでも新人扱いで(seniorityを築けない)、毎回、レイオフの対象となる。(※2)
メタでは、これまで毎年、MITなど有名校の学生をインターンとして雇い、卒業後、そのまま社員として雇っていた。2022年の夏にインターンを行った学生らは、過去にずっと新卒を採用してきたエリート大学からの学生を雇い続けるのだろうと安心していたらしいが、メタでは8月に新規採用を凍結し、昨年のインターンが社員として雇われることはなかった。インターンを含め、新たに採用された社員らは全員、解雇されたという。
・中間管理職・非技術職
メタでは、「組織をフラットにし、決断がより早くできるように中間管理層を一部削除する。そのために、結果を出せていない、または肝要でなくなったプロジェクトは中止する」と発表している。一部の管理職は、すでに降格されたり、退社を促されたりしている。
同社では、今後、主に非技術職が解雇されると言われているが、人員カットがなさそうのは、メタバース部門くらいだと言われている。
・無作為
一方、グーグルでは、経歴や業績、分野など関係なく解雇されており、関係者らは皆、「解雇の基準がわからない」という。
※1. 英語のlayoffは、会社側の都合で解雇されることを指し、昔、製造業などで使われていた「再雇用を前提での一時解雇」という意味で使われることは、今はない。
※2. 業界や企業によっては、中高年が対象となる場合もある。15年ほど前、アメリカの新聞社ではレイオフ、廃業の嵐が吹き荒れたが、50歳以上の社員がターゲットにされた。(年齢差別訴訟も数多く起こされているが、原告が勝訴するケースは稀。)
解雇された社員の反応
Big Techを解雇された若い世代では、かなりのショックを受けている人が多いようで、ネットでも不満や不安の声を挙げている。2000年のIT(ドットコム)バブル崩壊時の「血の海(blood bath)」と言われた大量解雇の嵐を目撃した筆者の世代としては、それが不思議だったのだが、世代によって受け止め方に違いがあるようだ。
・不況・失業を知らない世代
1981年~2012年に生まれたミレニアム世代とZ世代は、10年のIT企業の黄金期にキャリアを開始している。Big Techは、世界に名を知らしめ、世界を征服したかのように見えたようだ。
たとえば、「IT業界に不況などないと思った」「世界で一番安定した企業で働いていると思っていた」という社員は少なくなく、IT企業の黄金期しか知らない世代は、解雇されて大きなショックを受けている。
一方、1946~1980年に生まれたベビーブーム世代やX世代は、いくつもの不況を経験している。一番ひどかったのが、2000年にはじけたIT(ドットコム)バブルであり、人員整理どころか、ほとんどのドットコムが会社ごと一瞬に消え去った。(※3) 失業者は100万人以上にのぼり、2001から2005年にかけて、IT業界就業者の25%が失業した。これは、1990年代初頭の不況や2008年の金融危機よりも、はるかに多い。そして、その影響は数年にわたり続いた。
X世代は、若いうちに、その洗礼を受けている。30歳になる前に、数回、レイオフを経験した人など珍しくもなかったのは、この世代である。
その後、回復基調となり、IT業界の採用ブームが始まったのが2011年だった。成長が10年続く中、業界人数は、年間平均10万人以上増え続け、2021年までに、先のITバブル崩壊で失われた人数が戻った。この時期に、それまでなら、有名コンサルタント企業や投資銀行に入社したであろう有名大学の新卒らが、安定した有望な就職先としてBigTechを選ぶようになった。
2007年の金融危機以降、大きな人員整理などなかったので、今回の大量解雇が若い世代にとっては初めてのこととなった。インターン時代からグーグルで16年間働いて、これまで働いたのはグーグルのみという社員もいる。「安定した大企業に勤めていた」と思っていた社員らのショックと失望は、会社都合の解雇が稀な日本人の感覚と変わらないかもしれない。(2000年前からIT業界を注視している筆者としては、「IT=安定」という見方に違和感を覚えるが。)
※3. 筆者は、2000年に著書『黒字ドットコム』を出版したが、当時、日本ではアメリカの有名ドットコム企業のほとんど 赤字を垂れ流していることが知られていなかった。結局、ドットコムバブルを生き残ったのはヤフーとアマゾンとEベイのみ。
筆者も実際に目撃したが、失業した人材が大量に脱出したシリコンバレーの高速道路はガラガラとなった。
・解雇の通知方法
今回、解雇された人たちは、「寝ている間に、社内システムにログインできなくなっていた」「解雇の通知をメールやSNSで受け取った」ことにも不満を表している。
アメリカのレイオフというのは、通常、何の前触れもなく、朝、出社すると「あなたは解雇されました」と通知され、段ボール箱を渡されて、自分の机の物を片付けるというのが標準である。解雇されるのは自分だけというケースも多いので、皆が見守る中、片付ける方がみじめだと思うのだが(実際に、泣きながら片付ける人や数時間、放心状態の人を見たこともある)、退職願いもSNSで送るような世代が、解雇通知をSNSで受け取るのには不満というのは理解しがたい。(TikTokで、解雇されたショックや悲しみを涙ながらに公開している人たちもいる。)
出社したところで、社内システムにはアクセスできないし、セキュリティ上、警備員に両脇を抱きかかえられて会社から連れ出される人もいる。
これまで人員整理を経験したことのない世代が、初めてのことで、すべてに驚いている感が否めない。
・外国人社員
シリコンバレーのIT技術者の7割が海外生まれで、Big Techの社員の3~4割がインド人と言われ、今回、解雇された人材には、就労(H-1B)ビザで働いている外国人社員も多い。(※4)
このビザを保有し続けるには、2カ月以内に別の企業にビザをスポンサーしてもらうことが条件である。すでにBig Techでは新規採用を凍結し、それ以外にも人員整理が広がる中、2カ月以内にビザをスポンサーしてくれる企業を見つけるのは、よほど求められているスキルでも備えていない限り、むずかしいだろう。技術者以外では、ほぼ不可能と思われる。
そのため、ビザ保有者にはパニックに陥っている人も少なくなく、今回の大量解雇はインドでも大きなニュースになっている。
※4. H-1Bビザの仕組みに関しては、アメリカの就労ビザ(1)、(2)を参照のこと。
・不信感
今回、スタートアップ企業を除き、人員整理を行った企業の大半が黒字である。それも、グーグルの親会社、アルファベットは、前年同時期比、3割以上減少したとは言っても、2022年第四半期、130億ドルの純利益を計上している。また、利益が減少しているにもかかわらず、上層部の間で給与カットの話などはまったく出ておらず、解雇されていない社員の間でも、会社に対する不信感は募っている。
メタでも、解雇を心配する同僚に「会社には400億ドル以上の現金資産があるんだから大丈夫」と言っていた社員も、昨年、解雇されショックを受けている。
社員1万8,000人を解雇する予定のアマゾンでは、CEOの年俸は2億ドル以上あり、一般社員の年収(中間値 32,855ドル)の4,000倍以上に達している。同社の株価は一年ほどで35%下落しているが、同社でも、今のところ、経営陣の給与カットの話は出ていない。
マイクロソフトでは、「困難なマクロ経済の状況と顧客ニーズの変化」を理由として1万人の人員削減を発表する前日に、英ミュージシャン、スティングを招いてプライベートのコンサートを行っていたことに対し、批判を浴びている。
グーグルでは福利厚生なども手厚かっただけに(かつ解雇の基準が不透明なため)、社員の間では「会社に裏切られた」という感が強いようだ。グーグルでは、早々と心理的安全性を重要視してプログラムを導入したが、今回の人員整理で、メンタルヘルス担当の部長や部員も解雇されている。パンデミックの間、育休制度も充実させたが、今回、育休中の社員も解雇され、残った社員にも「口先だけで、実は会社は社員のことなど大事に思っていないのだ」という不信感が生まれている。
これまで、いけいけどんどんだったIT業界も、いつまでも”スタートアップモード”では、長年の間、会社を存続させるのは無理であり、ようやく成熟期に達したのだとも言える。若い世代も、現実の厳しさを学ぶ機会となったのではないだろうか。
人材市場の動き
再就職先
昨年から今年1月にかけては、人員整理をする企業は限定的だったため、とくにIT技術者は再就職先を見つけるのは困難ではなかったようだ。しかし、2月から一気に人員整理を行う企業が拡大しているので、今後は、再就職が難しくなる人も増えると思われる。
・中小のIT企業
スタートアップを含め中小のIT企業は、これまで、Big Techの高給やネームバリューにはかなわず、優秀な人材を採用できないでいた。同時に、パンデミック中、過剰に採用を行わなかったため、採用凍結や人員整理をせずにすんでいるという企業も少なくない。
とくに、ソフトエンジニア、フルスタック開発者、データサイエンティスト、クラウドアーキテクトなどの専門分野での需要が高い。
就活者の方にも変化が現れている。これまで人気の花形企業だったBig Techだが、今回の大量解雇で、「イノベーションよりも利益の方を優先するのだ」という失望から、別のBig Techに就職するのを躊躇する人材もいるという。また、これまでのように高給や知名度を優先せず、本当に社員のことを気にかけ、すぐに大量の人員整理を行なわないような企業を好む人材もいるということだ。
新卒も、厳しい現実を目のあたりに期待値を下げ、「ソフト開発でなくても、ITサポート職でもいい」といった柔軟な対応が見られるようになっている。
・非IT業界
米IT業界団体によると、今年1月の時点では、業界全体では求人広告は少々減ったものの、求人数は2018年初期と変わらないレベルであった。ただし、半数以上が医療や金融などIT業界以外のものであった。
今では、業界にかかわらず、ITなしではやっていけないので、どの企業にもIT部門がある。金融や医療、保険、顧客サービスなどでもAI、機械学習、クラウドなどの仕事は、これまで以上にある。
他の業界では、これまでBig Techの高給や充実した福利厚生に太刀打ちできず、優秀なIT人材をなかなか獲得できないでいた。そのため、今回、「またとないチャンス」とIT技術者を大量に雇っている企業もある。
世界で4万人のIT技術者を雇用している米大手商業銀行では、2022年に1,000人以上のIT職を採用した。2023年には、ソフトエンジニア、システムアーキテクト、UI、AI、機会学習などの人材を採用する予定だという。
何年もの間、他の業界は優秀な技術者を十分に雇えないでいたが、今回、労働市場全体でIT技術者の再配分が行われていると言える。
・グーグル
グーグルでは、今年3月31日までに社内で別の職を見つければ、残留できるという条件を提示している。しかし、解雇発表後、直ちに、解雇された社員らは社内システムにアクセスできなくなったため、社内募集の求人に応募できないという。
そのため、再就職したければ、一般の応募者として応募しなければならない。一般応募向けには、ソフトエンジニア、アナリスト、プログラムマネジャーなどの求人広告が多数あるが、審査過程は厳しく、何カ月もかかるという。
当然、部外者として扱われることを不満に思う社員は多く、「解雇した社員を助ける気がないのは明白」「グーグルに再雇用される確率は、ほぼゼロ」と失望を隠せない。
買い手市場に
12月ごろまでは、スキルにもよるが、技術者であれば3カ月もあれば再就職できたようだが、1月に入って人員整理する企業が増え、再就職には時間がかかり出している。
昨年11月末から、一気に求人が減り、競争が増している。職種にもよるが、リンクトインでも、ひとつの求人に対し、一週間で100~500人の応募があるという。
こうした中、中小企業やスタートアップ企業を解雇された人材は、何万人というBig Techの失業者と競うことを強いられる。10月にスタートアップのソフト会社で職を失った非技術者の男性は、70件の求人広告に応募したものの、返事が返ってきたのは10社ほどだという。
一般的に、最近、採用された社員から先にクビを切られるため、転職をすると、また転職先でクビを切られる可能性が高くなる。また、競争が激化する中、今回、解雇されたBig Techの元社員らと競争するのを不安視する人材もいる。競争が激しくなれば、過去、ブランド企業で働いたことのないものには不利である。そのため、「転職を考えていたが現職に留まることにした」という人たちが増えている。
そこで、時代は、「大退職時代(Great Resignation)」から「Great Re-commitment(再度今の職場にコミットする)時代」に変わったという声もある。
このように、労働市場は、売り手市場から買い手市場に変わりつつある。今後、さらに人員整理が進み、人材の再配分が行なわれることで、全体的な給料は下落すると見られている。また、就職するには、以前のように適切な経歴などが必要となる。このような市場修正を通じ、今後、IT業界も、給与や採用基準などにおいて、成熟した他の業界と同じようになると見る向きもある。
一方、社員を削減した分、企業からの外注が増え、契約社員や外注業者、フリーランサーとして働く人材も増えると見られている。今回の失業を機に起業をする人も出てきており、シリコンバレーの有名シードアクセレーターのY Comibatorへの応募は、2022年に2割増、今年1月には5倍に増えているという。こうした起業家の中から、次のBig Techが生まれるのかもしれない。
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