永住権という言葉を聞いたことはないでしょうか。
企業の人事ご担当者から「外国人社員が永住権を取りたいようだ」といったご相談をいただく機会も増えております。これまで日本で就労する外国人の多くは、母国に帰ることを前提に比較的短期間滞在しておりました。日本での生活は長くともせいぜい数年といった具合です。
しかし、グローバル化が進み、日本を生活の本拠とする外国人が増えたことから、「生涯日本で暮らす」という選択をする傾向が強まっております。
永住権は正確には「永住者」の在留資格と言います。
日本国籍となる帰化と混同されることが多いのですが、国籍はそのままであり、外国人のままです。大きな違いは就労に制限が無く、在留期限も無くなります。外国人にとっては窮屈な制限がなくなるばかりか、社会的信用度も高まると聞きます。不動産を購入される際の住宅ローンの審査が通り易くなったという方もいらっしゃいました。
このように外国人にとってはメリットも多く、VISAの王様ともいえる永住者ですが、簡単に得られるものでもありません。いくつかのハードル(要件)をクリアしなければならないという事になります。
例えば、就労の資格で在留する場合、原則として引き続き10年以上日本に在留していることが必要です。さらには、この在留歴10年のうち就労資格又は居住資格への在留資格変更許可後5年以上経っている必要もあります。
これは日本語学校、日本の大学を卒業した後、日本で就職してから5年間のキャリアを問われることを意味します。
しばしば問題になるのは仕事の出張等で日本を離れていたようなケースです。出国履歴も審査の対象となります。おおよそ年に3分の1以上、日本を離れた期間がある場合には日本に生活の本拠がないと判断される恐れがあり、永住許可申請においては極めて不利となります。会社の都合でやむをえない海外赴任であれば、海外出張命令書等を添付して出国の理由(日本にいなかった理由)を詳細に説明した方がよいでしょう。
また、このように日本への定着性が問われるため、永住の要件をクリアするのにあと一歩といった状況で、海外赴任を命じられた外国人がそれを拒むことがあり、しばしば問題になります。会社側としては外国人が永住者の在留資格を希望する事情をもふまえてご対応を検討された方がよいように思います。
さらには就労の在留資格をお持ちであっても、「現に有している在留資格について」、「最長の在留期間をもって在留していること」という要件があります。たとえば技術や人文知識・国際業務の在留資格をお持ちの方は「在留期間5年」である必要があります。
ただし、在留期間「3年」であっても実務上は同様に扱っているようです。
収入面においても就労の在留資格申請以上に気を配るべきです。就労では「日本人が従事する場合における報酬と同等額以上の報酬」が要件となっておりますが、永住許可申請においてはさらに厳しく審査される傾向が見受けられます。永住許可申請には公共の負担にならず、資産や技能等から見て、将来の安定した生活の見込みがあるかどうかについても審査範囲が及びます。言い換えれば、これから先の将来も日本国の負担にならず自力で生活していけるのかが問われます。さらには公的義務の履行として過去の納税実績などが審査の対象となります。
つまり、収入「額」に問題がなくとも納税額が低い場合には注意が必要です。永住を希望する外国人に扶養すべき家族が多ければ控除される額も多くなりますが、控除額を増やす目的だけで扶養家族を増やしているように見受けられるケースは審査上不利になります。
また、実際に扶養しているのかを確認するため送金実績を問われることもあります。最近では税金のみならず、年金についても実績を確認されるケースが出てきております。
犯罪者等素行の悪い外国人に永住許可がなされることはないというのは想像に難くないと思いますが、比較的身近といえる道路交通法違反にも注意が必要です。飲酒運転や無免許運転、スピード違反等はかなりマイナスとなります。たとえ軽微であっても駐車違反を繰り返す等故意と同視されるような場合も審査上不利に扱われる可能性があります。
本稿では就労の在留資格で日本に滞在する一般的な外国人が永住申請される場合を想定しておりますが、日本人と結婚されている場合や、日本人の血筋である場合には要件の緩和等がありますので、個別に確認していくとよいでしょう。また、日本で暮らす家族と一緒に永住申請をしたいと希望される場合には、家族の在留状況なども影響する場合がありますので、やはり確認が必要と言えます。
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