外国人社員と在留トラブル

グローバル採用の増加に伴い、外国人留学生であっても日本人社員と何ら差を設けることなく、職務においても全く公平に扱うという企業が増加しています。しかし、外国人社員は出入国管理制度のもとにおかれるため完全に日本人社員と同様の扱いは難しく、以下に示すのは外国人留学生が入社後に在留手続きにおいてトラブルとなりがちな事例です。入社後の業務拒否等の労使トラブルとなる事例も見られるため、雇用企業側が外国人留学生の採用前にしっかりとした対策を立てておく必要があります。

(1)実地研修
 ゼネラリストとしての採用であれば、長年にわたるキャリア構成の一環として、工場での生産活動への参加、店舗に派遣しての接客など、現場での経験を積んだうえでキャリアアップを図る企業も増えています。ただし、ここで問題となるのが単純労働への従事です。日本人社員と異なり就労可能な在留資格で滞在する外国人社員の場合には、原則として単純労働が禁止されています。というのは、在留資格を許可する際の必要条件として、「行おうとする活動内容が在留資格に該当すること」が要件となっているからです。在留資格「技術」や「人文知識・国際業務」の活動内容には、工場での作業、単純な店舗での接客などはもちろん該当せず、結果として在留資格更新申請の不許可や不法就労にもつながりかねません。しかし、このような状況では外国人社員だけが現場での研修を受けることができなくなります。
 入国管理局でも雇用企業がこのような問題を抱えていることは把握しており、非公式ながら高度人材を対象にキャリア形成の全体像、雇用する外国人社員の人数、現場での職務内容や期間、その他の条件を含めて総合的に判断するとの回答をだしています。その結果、店舗での物品販売、工場での組み立て作業などの単純労働であっても、短期間等の条件付きであれば就労可能な在留資格のもとで実施することが認められる可能性も考えられます。とはいえ、入管法が改正されたわけではなく、あくまでも「不法就労に該当する場合には雇用企業および外国人社員ともにしかるべき処置をとる」との回答もあるため、慎重な在留手続きが求められます。

(2) ジョブローテーション
ゼネラリストとしての採用である場合、業種を問わず将来の幹部候補として育成したいと考える企業が増えています。例えば、「技術」の在留資格で就労する理系総合職の外国人従業員を、人材育成の観点から国際貿易担当などの文系総合職へジョブローテーションを行ない、さまざまな部署・職種を経験させてキャリアアップを図る例が見られます。しかし、こうしたジョブローテーションを外国人従業員へ行うことは、資格外活動に関する入管法違反とはならないのか、また在留資格変更の必要性といった懸念が生じます。
外国人従業員が本来の在留資格に該当しない業務に従事しようとする場合には、原則として資格外活動の許可が必要になります。この資格外活動の許可の要件は、外国人従業員が有する本来の「在留資格の活動の遂行を阻害しない範囲内であり、かつその活動が相当と認められる場合」とされています。本来の活動の遂行を阻害しない範囲内かどうかの判断は、審査要領により「単にその活動の時間数、報酬額の多少によってのみ判断されるものではなく、具体的な事情に基づいて実質的に判断される」とされています。ジョブローテーションの人事異動により、現に有する在留資格に係る活動が“主たる業務”であり、資格外活動に係る活動が“従たる業務”の場合には在留資格変更の申請は必要ありませんが、少なくとも実務上は、 “従たる業務”が “主たる業務”の過半とならないようにする留意する必要があります。
一方、外国人従業員へ人事異動を命じたことにより、現に有する在留資格の活動に該当しない業務内容となった場合には、在留資格変更の申請が必要となります。この際には外国人従業員が行おうとする業務活動のほか、在留の状況、在留の必要性などを総合的に勘案されて審査されます。もちろん、この場合にも業務内容と専攻科目との“関連性”については “大学における専攻科目と就職先における業務内容の関連性の柔軟な取扱い”が考慮されますが、申請の相当性なども考慮されるため状況により判断されます。

(3)海外勤務
 外国語に堪能な外国人留学生には、将来、海外業務に就くことを想定して雇用するケースが多くみられます。その際に問題となるのが在留資格「永住者」の取得です。日本に在留する外国人は滞在期間の長期化が進んでいるため、在留期間が無制限となり日本における活動内容に制限がなくなる「永住者」の取得を希望するケースが大半を占めます。
在留資格「永住者」の取得申請の要件の一つとして、「引続き10年以上日本に在留していること」が求められます。外国人留学生の場合、来日から10年が経過すると年齢的には30歳前後となる事が多く、会社からの期待が多くかかり海外勤務などのチャンスが増える時期と重なります。ところが、審査基準の10年のうち、実務上は、過去3年間の日本での滞在歴などが重視され、中でも海外出張や出向などで年間100日以上、日本から出国している状態では「永住者」の取得は難しいとされています。そのため、海外支店への出向などが命じられる可能性があれば、前もって「永住者」の取得を希望している旨やその取得スケジュールなどを雇用企業と調整しておかなければなりません。
 

ACROSEEDグループプロフィール
日本における外国人の法務サービスに特化したコンサルタント会社です。1986年の行政書士事務所の開業以来、外国会社の日本進出支援、外国人のビザ申請、外国人雇用のコンサルティングなどを25年以上にわたり専門に扱ってまいりました。[http://www.acroseed.co.jp/]  ・メール:contact@acroseed.co.jp ・電話番号:03-6905-6370