欧米のテレワークの課題とその取り組み(1)

Office, employee. Successful, young man at work
2020.07.01

 今回、パンデミックの影響で、急遽、テレワークを強いられ、準備が整っていなかった企業も少なくなかった。また、アメリカでは、テレワークが長引くにつれ、マイナス面が取り上げられるようになっている。
 今回は、テレワーク導入および運用にあたっての課題と、その取り組みについて報告する。
最大の課題はIT
 今年5月に、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス5カ国の従業員数500人以上の企業の上級管理職を含むIT意思決定者600人を対象に行われた調査では、回答者の72%が「突然のテレワークへの移行に技術面で十分な準備ができていなかった」と回答した。(※1)そして、一番の問題として「技術(IT)」(29%)に続き、「チーム・従業員間でのコミュニケーションの停滞」(26%)、「注力の維持」(25%)が挙げられた。

テレワークへの移行における問題

※1.Xerox ”The Future of Work in a Pandemic Era”

技術面では、一番の課題は「ITサポート」(35%)で、次に「不十分なワークフローソリューション」(27%)、「コミュニケーション・コラボレーションツールの欠如」(22%)、「クラウドベースのソリューションの欠如」(10%)が続いた。

技術面での課題

アメリカの大中企業の中間管理職および上級管理職400人を対象にした調査でも、54%が 「コラボレーションのためのインフラがない」と回答しており、チームメンバーとのやりとりには、メール、メッセージ、電話、Google Docsなどのプラットフォームを利用しているという。(※2)
 4月に米企業の上級管理職とその部下900人を対象に行われたアンケート調査では、「回答者の49%が生産性が低下した」と答えたが、その最大の理由が「必要なツールやリソースにアクセスするのが困難」(33%)であった。(※3)

※2. Pipefy “Pulse of Remote Work: Before & After COVID-19”
※3. Globant, “Supporting employee productivity during Covid-19

取り組み例

 先述の5カ国調査では、「突然のテレワークへの準備が十分できている」と答えのはアメリカ企業が一番多く、フランス企業が最低であった。そこで、ここでは、アメリカ企業の取り組み例について紹介する。
 一言でいうと、テレワークへの移行がうまく行った企業・組織は、「以前から準備ができていた」ところで、「災害時などの対応が整備されていた」「一部の社員がすでにテレワークをしていた」というものだ。
 たとえば、アメリカン・エクスプレスでは、2週間で社員6万人が100%テレワークに移行したというが、4月の時点で、2月の倍にあたる3800万分のバーチャル会議をこなすだけの容量やテレメトリーを加えることができている。同社では、今年いっぱい半数以上の社員がテレワークを続けるという。大手保険会社のAllianz Lifeでも、1週間未満で米社員5万人の98%がテレワークが可能になった。
 社員にPCや必要なツールを配布し、30支店の550人をテレワークに移行したという信用組合も、
昨年から、書面によるコミュニケーションを動画による毎週のアップデートに移行していたことがテレワークの導入に役立ったという。
 CRMベンダー最大手のセールスフォースでは、かなり以前からクラウド製品を販売しているが、全社員が営業、マーケティング、顧客サービス、Eコマースなど、すべての業務をスマホのAIアプリで行えるという。(※4)

※4. セールスフォース日本法人のテレワーク取り組み。

ITサポート

 先述のアンケート調査では、「ITサポート」が最大の課題として挙げられたが、ロックダウンによって最大の影響を受けたのはITサポートといえるだろう。通常の社内勤務であれば、社員のデスクに出向いて問題を解決することができる。テレワークでは、電話によるサポートは可能であるものの、社員の多くが自前のPCを利用しており、どのような機器なのかも、ITスタッフにはわからないわけである。また、ある米企業では、社内勤務に比べ、「アプリケーションが遅すぎる」という苦情が多々寄せられたという。
 やはり、これに関しても、以前からテレワークの整備をしていた企業では、大した問題は起きなかった。東京海上火災の米子会社、TMNA Servicesでは、5年前に社内で使用するノートPCを2種類に限定した。ノートPCは、すべてテレワーク仕様であり、パンデミック発生時には、すでに約社員の6割が柔軟な勤務形態の許可を得ていた。年月をかけてユーザの場所を限定しないインフラ作りが進められ、コロナ禍で、コスタリカにある同社のITヘルプデスクもテレワークに移行したが、ユーザは気付かなかったくらいだという。
 同社では、バーチャルデスクトップインフラを利用しているが、セキュリティやコンプライアンスといった面だけでなく、保険会社のように大量の技術・メディアファイルを消費者向けブロードバンドネットワークで送信しなければならない企業には向いているという。

※5. IBMの調査では、新たにテレワークを始めた社員の半数以上が自前のPCを利用

機器の配布

 バンク・オブ・アメリカでは、6週間の間に17万5000人以上がテレワークに移行したが、社員に計9万台のノートPCを配布した(配布に2ヵ月要したようなので、その間、「PCがない」「自前のPCを利用した」という社員もいるかもしれない。)
 ノートPCが足らなかったという健康保険団体では、当初、職員に会社のデスクトップを持ち帰らせたという。
 デスクワークでない社員と、どのようにコミュニケーションを取るかというのも課題だが、全米の建設現場に散らばる作業員4500人の大半に、モバイル機器を提供したという建設会社もある。
 民間企業と違い、旧式の設備を利用している米連邦政府でも、前回、報告したように、今回、一気にテレワークが推進した。
 退役軍人省では必要な職員にノートPC1万6000台以上とiPhone7500台を配布した。同省では、退役軍人用医療施設も運営しているが、患者が来院せずに診療を受けられるよう、ネット回線のバンド幅を倍増し、オンライン診療を3倍に増やした。たとえば、1月には一日平均2000件だったビデオ診療が、5月には一日2万5000件に増加している。
既存の契約業者を通じて、新たなツールやサービスを導入したことが、迅速な導入につながったという。

州政府および自治体

 コロナで大きな被害を受けたニューヨーク州の労働局では、パンデミック発生時、すでにテレワークを試験展開中だった。3月中旬には、全職員に向け「非常事態テレワーク」プログラムを開始し、職員にはオンライン研修を義務付けた。
 同局では、テレワーク移行と同時に、急増する失業保険の申請処理という大作業にも直面していた。申請の処理は滞り、未処理件数が3月からの1万4500件から、4月には40万件弱に達していた。新たに何百人というスタッフを雇ったものの、ピーク時には通話数は1万6000%、ネットアクセスは1600%増加し、パンク状態であった。
 解決策として、グーグルなど民間企業と提携し、クラウドでモバイル対応のアプリを展開した。(※6)  
 これによって、申請者はスマホから申請して、申請書を保存することも可能となった。オンライン申請システムをサポートするために、サーバも4台から60台に増やすことで、通話数が激減したという。
 なお、州政府では外部業者に、州のソフトを搭載したPCではなく、仮想マシンを提供した。業者は仮想マシンを通じ、州政府のネットワークやアプリケーションにアクセスすることができた。コールセンターも、業者にアウトソースしたが、仮想マシンを通じ、申請者からの通話を業者に転送したという。
 前回、アメリカの自治体の対応も報告したが、全米の郡や都市など自治体の61%がテレワークを導入している。自治体のIT担当者を対象に行った調査によると、ノートPCやモバイル機器を配布できる態勢が整っていたのは半数のみであった。(IT化があまり進んでいないところは、窓口閉鎖で電話で対応。)
 やはり、自治体でも、以前から準備が整っていたかどうかが明暗を分けた。アイオワの州の都市では、以前からバーチャルデスクトップインフラを導入していたことで、テレワークへの移行がうまく行ったという。職員は、メールで送られたリンクをクリックするだけで、ブラウザーを通じて市のネットワークにアクセスが可能である。それができない職員には、モバイルシンクライアントが支給された。
 オハイオ州の、ある郡では、既存の非常時対応計画書に基づいて、数日の間に、3500人の職員をテレワークに移行することができた。テレワークを可能にするため、各部署が新たなソリューションを購入できるよう、デジタル署名が可能なドキュメント管理ソリューションを導入した。  
このように、自治体でのテレワーク導入の一番のネックは、住民や業者からの書類を対面または郵送で受け取らなければならず、かつ大量の書類処理を強いられる点である。しかし、クラウドベースのECM(エンタープライズコンテンツ管理)を利用して、これを解決した自治体(先住民居留地)がある。町長はオンラインプラットフォームで書類を承認して、電子署名を行うことが可能となり、署名のために、わざわざ事務所に出向く必要がなくなったということだ。
 ウィスコンシン州の、ある郡では、不動産開発業者が、複数の部署から各種許可を取得するのに、通常、対面のミーティングが行われていた。しかし、コロナ対応で、業者は役所に計画書を電子送信し、ビデオ会議で提示して、職員が審査するという形が取られるようになった。当初、一時的な処置として行われたが、この方が効率がよいので、今後は、この形が標準になるという。

※6.追加のコールセンターをデロイトにアウトソース、大手通信キャリア、ベライゾンは通話ポートを拡大し、激増する通話数に対応。

まとめ

 テレワーク移行に成功した企業のIT担当者が口をそろえて言うのは、「日頃から、非常時のために準備しておくこと」ということだ。
 前回、報告したように、一旦はテレワークを中止したIBMだが、今、世界中のフルタイム社員35万人(ノートPC48万台、モバイル機器22万台)の大半が問題なくテレワークを行っているという。IBMでは、「危機時にも運営できるか、常にITシステムのテストを行っている。さまざまな自然災害、地政学的リスク、サイバー攻撃、その他、いくつもの潜在的に破壊的なシナリオをモデル化して備えている」という。
 同社のCIOは自社の経験を基に、他社のCIO向けに「アクションガイド」を作成しているが、そこで唱えているのは、1)アプリケーション環境の近代化、2)ネットワーク容量の近代化、3)職場の近代化、4)オペレーションの近代化である。(※7)

 日本にも「備えあれば、憂いなし」という諺があるように、日本企業・政府も、今回の事態を 教訓に、次回の非常時に備え、早急にテレワークの環境を整えるべきだろう。

※7.<参考> アメリカの不動産売買時の書類は、日本の何倍にものぼり、10年ほど前から書類はソフト・アプリで作成、メール送信で電子署名が普及し始めた。最後の決済は、パンデミック中も、対面で自筆の署名が必要。

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。