日本を取り巻く外交や社会的な問題を起因として、昨今では日本企業の東南アジアへの海外進出が急激に加速しています。特に成長著しいベトナム、インドネシア、マレーシアなどに進出する企業が多いのですが、そこで問題となるのが「現地採用社員に日本流の仕事のやり方、考え方などをどのように理解させるか」です。製造業等の技術移転については、現地で日本と同等の設備等を準備し、熟練した日本人社員が海外に赴任することでカバーできます。しかし、日本流の価値観、働き方、仕事に対する情熱など、目に見えない日本企業の特性を伝え、理解させることは非常に困難です。というのは、現地ではその国特有の考えや国民性などがあるため、少数の日本人社員が必死になって現地社員に語りかけても、なかなか受け入れてもらうことができないからです。そこで、多くの企業はリーダーやマネージャーなど、一定以上の役職者については日本の本社で数年間仕事をさせ、その経験を通じて企業理念や日本流の価値観などを身に着けてもらい、海外に帰国した際にリーダーとして役立ててもらおうと考えます。その結果、ここ数年で多くみられるのが、日本本社の理念や働き方、考え方などの目に見えない起業スペックを伝えるための“現地採用社員のインバウンド研修”です。
しかし、ここで問題となるのが在留資格です。現地採用社員が来日する際には、原則として何かしらビザを取得することが必要ですが、現在の入管法ではインバウンド研修のために作られた在留資格は存在していません。そのため、既にあるいくつかの在留資格の中から選ぶことになりますが、それぞれの在留資格ごとに受け入れ条件等が異なるため、人事部の方が頭を悩ませるケースが増加しています。
どの在留資格になるかは、受け入れ時の条件等により異なりますが、主に日本での活動内容と雇用形態(給料の支払い者、契約締結者、給与額等)が大きく影響します。
上記は、「日本本社では雇用や賃金に関する事にはノータッチで研修のみに特化したい」という、インバウンド研修実施の際によくある受入れ条件です。このような場合では、どの在留資格を選んでも一長一短というケースが多いようです。実務的には何かしらの条件を変更しなければなりませんが、コンプライアンスが重視される現代では慎重な対応が求められます。
特に日本本社で行う研修内容に、実務研修が含まれる場合には注意が必要です。よくある例としては、製造業の場合の工場作業、飲食店の接客業務などで、本来は就労可能な在留資格で行うことが出来ない単純作業等が含まれている場合です。企業側の見解としては「現場の業務がわからないようでは研修にならない。短期間でもいいから現場に出てもらいたい。」というものですが、「人文知識・国際業務」、「技術」、「企業内転勤」等の在留資格でこれらの業務に就かせた場合には、例え研修の一環であったとしても入管法違反となる可能性があります。さらに、ビザ申請の際にこれらの業務内容を伏せて在留資格を取得した場合には、虚偽申請と指摘される可能性も考えられため、入国管理局には事前によく説明した上でビザ申請を行わなければなりません。ACROSEEDでは、過去に大手ハンバーガーチェーンの店舗接客を含めた外国人社員研修のためのビザ申請を行いましたが、その際にも入国管理局から複数回に渡り入念な説明が求められました。結果として在留資格は無事に許可して頂けましたが、非公式ながら入国管理局側の見解は、「企業から現場での研修実施の要望が出ているのは理解しているが、あくまでも入管法を基準に総合的に判断する」との内容でした。そのため、入国管理局側でもケースバイケースの対応が続いているのが実情のようです。
以上のように、現地社員のインバウンド研修を実施する際には、どれが正解というように断定することは難しく、入管法、税務、労務と言った面から総合的に判断せざるを得ず、慎重な対応が求められます。
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