外国人留学生を採用した際に行う「留学」から就労可能な在留資格への変更手続き中、不許可となる原因で最も多いのは“大学等での専攻と職務内容との不一致”です。現在では基準が緩和されており完全に合致していなくても許可される例が見られますが、依然として考慮は必要であり資格変更手続きの許可率を高めるためにも慎重な対応が要求されます。
(1)在留資格更新・変更の許可基準
在留資格変更の申請は、入管法第20条第3項により「法務大臣は、当該外国人が提出した文書により在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる。」とされています。さらに、その詳細な判断根拠として法務省入国管理局より「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」が示されています。これによると、①許可する際に必要な要件、②原則として適合していることが求められる要件、③相当性の考慮案件の3つの判断基準が設けられ、これらをもとに総合的に判断されることになります。
①許可する際に必要な要件
・在留資格の該当性
②原則として適合していることが求められる要件
・上陸許可基準への適合
③相当性の考慮案件
・素行が不良でないこと
・独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
・雇用、労働条件が適正である事
・納税義務を履行していること
・入管法に定める届出等の義務を履行していること
など
①の「在留資格の該当性」は必要条件となっているため、就職先での職務内容が入管法で定める「人文知識・国際業務」や「技術」に定められた活動でなければ許可されることはありません。また、②の上陸許可基準への適合は、原則として適合が求められるものであり、必要条件ではないものの可能な限り適合していることが求められます。また、③の相当性については、「在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの代表的な考慮要素の一例であり、列記された事情以外の条件で不許可となる可能性も考えられます。とはいえ、一般的な外国人留学生の就職に伴う在留資格変更手続きで問題となるのは、②の上陸許可基準への適合が大部分を占めます。
(2)「技術」、「人文知識・国際業務」の上陸許可基準
在留資格「技術」の場合、大まかに言えば「就職先の職務内容について、それに必要な技術や知識に係る科目を専攻して大学を卒業し、その技術や知識を習得していること。」という内容が定められています。そのため、従事しようとする業務内容と大学等の専攻科目との間に一定の“関連性”が求められることになり、外国人留学生は卒業した学部や学科により就職先での大まかな職務内容が必然的に定められてしまうことになります。
一方、在留資格「人文知識・国際業務」の場合には、“人文科学の分野に属する知識を必要とする場合”と“外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務”の2つに分けられます。前者の場合には、従事しようとする業務内容と大学等の専攻科目との間に一定の“関連性”が求められることになります。そのため、「技術」と同様に、卒業した学部や学科により就職先での職務内容が限定されてしまいます。ただし、後者の場合には、専攻と職務内容との関連性は求められておらず、どのような学部学科の生徒でも「人文知識・国際業務」に該当する可能性があります。そのため、「人文知識・国際業務」で申請を行う場合には、まず業務内容を特定して前者と後者のどちらに該当するのかの特定が大切です。
従来、「人文知識・国際業務」では、翻訳、通訳といったスペシャリストである“外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務”が大部分を占めていました。そのため、大学等を卒業していれば専攻と業務との関連性が問われることはなく、在留手続きではあまり問題となるケースは見られませんでした。しかし、昨今ではゼネラリストとしての外国人留学生の採用が主流となりつつあり、それに伴い、“人文科学の分野に属する知識を必要とする場合”に該当するケースが増加し、「専攻と職務内容の関連性」に伴う在留手続きのトラブルが増加しています。
(3)関連性の緩和措置
“専攻と職務内容の関連性”は在留手続き上では重要ですが、最近では職種において文系と理系の区別があいまいとなり、また、新入社員には幅広く様々な分野で経験を積ませキャリアアップを図りたいと考える企業も増加しています。そこで、法務省は“大学における専攻科目と就職先における業務内容の関連性の柔軟な取扱い”を公表し基準を緩和しています。この公表資料によると「現在の企業においては、必ずしも大学において専攻した技術又は知識に限られない広範な分野の知識を必要とする業務に従事する事例が多いことを踏まえ、在留資格「技術」及び「人文知識・国際業務」への変更の判断に当たっては、柔軟に判断して在留資格を決定している。」とし、この取扱いの周知徹底を図るために地方入管局へ通知しています。
そのため、原則としては従事しようとする業務内容と大学等の専攻科目との“関連性”が求められているものの、高度人材受入推進のために、外国人留学生の在留資格変更の申請についてはその要件が緩和されています。そのため、雇用企業での職務内容と外国人留学生の卒業した学部・学科との関連性が薄い場合でも、許可が出る可能性は考えられます。ただし、あくまでも“柔軟に判断する事”にとどまっており、“関連性”がまったく必要ないと規定されているわけではありません。関連性が高ければ高いほど在留資格手続きが許可される可能性は高まりますので、慎重な対応が必要となります。
掲載内容は、作者からの提供であり、当社にて情報の信頼性および正確性は保証いたしません。