ビジネス界の無視できない問題:スタッフの孤独感とその対策

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2024.01.29
2018年にイギリスが世界初の孤独問題担当大臣を任命した際は、世界的に大きなニュースとなった。その後、孤独・社会的孤立が世界的に問題であるという認識が広まり、2021年には、日本が孤立・孤独担当大臣を設ける第2の国となった。(なお、イギリスの孤独問題担当大臣は、2021年に政権交代後の内閣改造で廃止された。)

昨年、11月には、世界保健機構(WHO)が孤独・孤立を「差し迫った健康上の脅威」として国際的な対策委員会を設立している。アメリカでも、成人の半数以上が孤独を感じているという調査結果があり、同委員会の共同委員長でもある公衆衛生総監(US Surgeon General)が「孤独が社会に蔓延した問題(エピデミック)である」と宣言した。

WHOが113ヵ国を対象とした調査では、若者の5~15%が孤独を実感しているという結果だったが、アメリカの調査では、Z世代(18~25歳)が一番孤独を感じており、3割以上が「頻繁に、または常に孤独を感じる」と答えている。(※1)

なお、孤独は、先進国に限った問題ではなく、孤独を感じる高齢者の割合は、世界のどの地域でも変わらないという結果である。また、アフリカでは、思春期の若者の13%が孤独を感じると言い、ヨーロッパの5%に比べ、倍以上の割合である。若者の社会的孤立の要因として、高い失業率、平和や治安への不安などが挙げられている。

また、大学で孤独を感じる学生は、中退する傾向が高いこともわかっている。日本でも、コロナ禍で大学中退者が増えたが、その理由として、経済的困窮だけでなく、「オンライン授業で友人関係が築けず寂しかった」といった孤独感や虚無感が挙げられている。そして、中退した結果、経済的困窮、職場での疎外感、仕事への満足感や業績の低迷にもつながっている。

※1. Harvard Graduate School of Education 2022年12月

 
健康を蝕む孤独

イギリスでの調査では、孤独は、一日にタバコ15本の喫煙と同等の健康被害を生じ、肥満や運動不足よりも健康に及ぼす悪影響が大きいという結果が出ている。

2023年に発行された米公衆衛生総監の報告書によると、孤独によって、認知症(50%)や脳卒中(32%)、心臓病(29%)などのの発症率、早死(26%)の確率が高くなるということである。(※2)

 
・欠勤や離職につながる孤独

2022年にアメリカの保険会社が行なった調査でも、孤独を感じている社員は、そうでない社員に比べ、「効率的に働き、自分の能力を発揮できる」という割合が少なかった。(※3) また、孤独を感じている社員は、「過去3ヵ月、心ここにあらず状態」であるという割合が多かった。

さらに、孤独を感じている社員は、そうでない社員に比べ、「自分の仕事に満足していない」割合が3倍以上で、そうした社員の約3割が「過去3ヵ月、職場で気分がすぐれない」と報告している。

2022年にアメリカで発表された研究結果では、孤独を感じている就業者は、そうでない就業者に比べ欠勤日数が7倍近く多く、かつ「翌年に辞職したい」という割合も倍近く多いことが判明している。

そして、こうした孤独発端のストレスによる欠勤が、企業にとって年間154億ドルのコストとして伸しかかっているという。(※4)

※2. US Surgeon General “Our Epidemic of Loneliness and Isolation,”
※3. Cigna/Morning Consult“The Loneliness Epidemic Persists: A Post-Pandemic Look at the State of Loneliness among U.S. Adults”2021年12月にアメリカの成人約2500人を調査。
※4. Anne Bowers, Joshua Wu, Stuart Lustig, Douglas Nemecek Journal of OrganiZational Effectiveness: People and Performance “Loneliness influences avoidable absenteeism and turnover intention reported by adult workers in the United States” 2019年7~8月、アメリカの成人就業者1万人以上をアンケート調査。

 

職場での孤独

とくに最近、注目を集めているのが「職場での孤独」である。2023年にアメリカで行なわれた調査では、フルタイム勤務者の44%が「職場で孤独を感じている」(11%が「非常に孤独」、33%が「やや孤独」)と答えた。(※5) なお、「非常に孤独」と答えた就業者は、男性(15%)が女性(7%)の倍にのぼっている。

世代的には、「職場で孤独を感じている」のはZ世代が一番多く半数以上(55%)にのぼっており(「非常に孤独」12%、「やや孤独」43%)、次いでミレニアル世代の48%(14%、33%)だった。X世代では39%(6%、33%)、ベビーブーム世代では25%(3%、22%)で、年齢とともに、孤独を感じる割合が減っているのがわかる。

これは、勤務年数とも比例しており、「入社半年以内」の社員の半数以上(54% の内訳、a.「非常に孤独」17%、b.「やや孤独」37%)が孤独を感じている。入社年数が長くなると「孤独を感じる」割合が減る傾向があり、「入社半年から3年」では51%( a.9%、b.42%)だが、「非常に孤独」が激減している。「入社3年~5年」は、42%で( a.10%、b.32%))、「入社7年~10年」は43% (a. 13%、b.30%))で、あまり変わらない。「入社10年以上」になると30%(a.7%、b.23%)まで下落する。

こうしたことから、企業では、入社年数の浅い若い社員に対するサポートに重きを置く必要があるということだ。

 
・仕事に悪影響

職場での孤独感は、やはり仕事に悪影響を及ぼしており、孤独な就業者は、そうでない就業者に比べ、「集中していない(心ここにあらずの)」割合が1.5倍、「生産性が低下する」割合が4.5倍にのぼるという結果が出ている。さらに、ストレスのために不眠に悩まされたり、不健康な習慣に陥ったり、家族や友人に対し粗野な行動を取る割合は4~6倍に増えるという。

 
リモートワークの影響

上記の調査によると、勤務形態別では、孤独を感じている割合は、リモートワーカーが一番高く、半数以上(58%の内訳、a.「非常に孤独」14%、b.「やや孤独」44%)にのぼっている。しかし、ハイブリッド勤務者の37%(a.8%、b.29%)に比べ、フル出勤者の方が孤独を感じる割合は41%(a.11%、b.30%)と高くなっており、必ずしもフル出勤が孤独を解消するわけではないようだ。

「職場で過ごす時間が増えれば状況は好転する」と答えたのは、「非常に孤独」を感じている就業者のうち35%のみであった。後述するが、周りに人がいるからといって孤独感がなくなるわけではない。

また、会議の多い就業者の方が、会議の少ない就業者に比べ、「非常に孤独」と感じる割合が倍であった。これは、リモート勤務やハイブリッド勤務が増えたことで、自然に生じる対面でのやりとりよりも、オンライン会議などが増えたことが理由と考えられる。単に会議に出席することが、他人とのつながりを増やすことにはならないということだ。

コロナ禍中の2021年に行なわれた調査では、5ヵ国の就業者5000人の82%が「職場で孤独を感じている」と答えていた。(※6) また、回答者の半数近く(49%)が「コロナ前よりも孤独を感じる」ということだった。そして、回答者の40%が「同僚との対面でのやりとりがないことが、主に仕事関連の孤独感につながっている」と答えていた。

さらに、70%以上が「リモートワークでは、十分に社会交流ができない」と答えている。そして、46%が「孤独のために辞職するかもしれない」ということだったが、とくに若い世代で、その傾向が強く、Z世代では54%、ミレニアルでは52%で半数以上に達していた。(X世代では42%、ベビーブーム世代31%。)

一方、経営陣の90%以上が「リモートワーカーの間では文化やつながりが不足している」と懸念しており、それが出社回帰を推す要因になっているのは間違いない。

 
・求められる人との触れ合い

イギリスの研修会社が、イギリスの大手100社とアメリカの大手100社を調査したところ、リモートワークを長時間続けることは、精神的だけでなく、身体的にも健康に悪影響を及ぼすという結果を得た。(※7) 長時間一人で過ごすことで、免疫力が低下し、不安や鬱だけでなく、心臓病や脳卒中、認知症が増えるという。

イギリスで2023年に行なわれた調査でも、複数の国や業界のZ世代の就業者2000人を調査したところ、リモートワーカーの多くが「同僚から孤立し、人間関係を築く機会を逃している」と感じていた。(※8) こうした状況で、社員のストレスや不安感が増し、生産性が低下したり、勤務先の風土に溶け込めないといった悪影響が生じている。

2023年に34ヵ国のフルタイム勤務者4万人以上を対象に行なわれた調査では、出社している社員の62%が「同僚と触れ合えること」、52%が「対面で協働できること」を出社の一番のメリットとして挙げている。(※9) なお、全回答者の67%がフル出勤で、26%がハイブリッド勤務、フルリモートは8%であった。

入学して間もなくコロナ禍が始まった学生らが、昨年、大学を卒業して就職したが、彼らは、勤務形態として半数以上(53%)が「フル出勤」を希望しており、「ハイブリッド」(26%)や「フルリモート」(21%)の希望者は、その半数以下であった。(※10) 実際に、フルリモートが嫌で転職したり、出社は週一日でよいところを進んで4日出勤するというZ世代社員がいる。

アメリカでは、コロナ禍で新卒で入社し、初めからリモートワークだった世代は、仕事を通じて人間関係が広がらないことから、友人作りに躍起になっている。出会いを求めて、フィットネスジムや高額のクラブに入会したり、新たな趣味を始めたり、カルチャースクール的な講座を受講したりし、コロナ前より友人作りのためにお金を使っているという。

ただし、先の新卒を対象とした調査では、就職先を検討するにあたって、給与以外に重要な福利厚生として、72%が「柔軟な勤務時間」、49%が「柔軟な職場環境」を挙げており、やはり勤務体系の柔軟さが求められている。

 
Z世代に強い孤独感

こうしたZ世代の傾向は、別の調査にも表れている。

2023年のSHRMの調査では、「毎月、職場で孤独を感じている」という就業者は、38%に達していた。(※11)
とくに若者の間で高く、「毎週、職場で孤独を感じている」と答えたのは全体では13%のみだったが、Z世代(26歳)では24%であった。

Z世代は、こうした状況がキャリア形成にも影響を及ぼすことに危機感を抱いており、「職場での自然発生的なやりとりがキャリアアップにとって重要」と答えたのが、全体では21%であったのに対し、 Z世代とミレニアル世代では47%と半数近くにのぼっている。

また、「自分のメンタルヘルスは2019年より向上した」という就業者は、そうでない就業者に比べ、カジュアルなやりとり行なっているという割合が3倍以上にのぼっていた。職場でのカジュアルなやりとりが社員のメンタルヘルスに関係していることもうかがえる。

 
・仕事のメンタルヘルスへの影響

2023年3月にSHRM財団が、メンタルヘルスについて行なった調査では、回答者の3割が「過去半年で、仕事が自分のメンタルヘルスに悪影響を及ぼした」と答えている。(※12) 30%が「仕事に圧倒されている」、29%が「少なくとも週に一度、仕事のために不安になる」という。

やはり、若い世代でメンタルヘルスに悩む割合が多く、Z世代の27%が「過去半年、少なくとも週に一度、仕事で落ち込んでいる」と答えている。これは、ミレニアル(13%)に比べても倍の割合である。、X世代(14%)やベビーブーム世代(7%)では、さらに低い。また、「仕事に圧倒されている」と答えたのも、Z世代(42%)が一番多く、ミレニアルでは36%、ベビーブーム世代では20%だった。

 
コロナ開けに悪化

2023年に、アメリカで就業者1100人を対象に行われた調査では、半年前に比べ、37%が「帰属感が低下した」、同じく37%が「エンゲージメントが低下した」、34%が「メンタルヘルスが悪化した」と答えている。(※13) 

「メンタルヘルスが悪化した」という就業者の70%近くが、「エンゲージメントが低下した」と答えており、メンタルヘルスが仕事に与える影響がうかがえる。

「過去半年でエンゲージメントが低下した」というのは、ミレニアル世代では43%に達しており、X世代(38%)やベビーブーム世代(34%)より高くなっている。これは、「期待されただけの仕事、またはそれ以下の仕事しかやらない」というミレニアル世代が、他の世代に比べて高い数字(40%)に表れていると言えるだろう。(X世代では30%、ベビーブーム世代では29%)。エンゲージメントの低下が、生産性や業績に悪影響を与えているということだ。

「メンタルヘルスが悪化した」という就業者の半数近く(48%)が、勤務時間が週に50時間以上に達していた。また、女性の49%、ミレニアル世代の50%が「仕事の量がメンタルヘルスを悪化させている」と答えている。さらに、メンタルヘルスに悪影響を与える要因として、「職場での乏しい?コミュニケーション」(42%)、「ワークライフバランスの欠如」(41%)、「会議に費やされる時間」(40%)が挙げられた。

 
・回復しない人づきあい

実は、コロナの中、ロックダウンや自粛などで人とのつきあいが途絶えてしまったのが、コロナが明けても回復していない。不景気になると、人づきあいが減るのだが、通常、景気が回復すれば、人づきあいも元に戻る。しかし、今回は、コロナが明けても回復しないどころか、反対に悪化している兆しもある 

アメリカの調査では、平日に人とコミュニケーションをとったり、付き合いをしたりする時間が、2019年に下落したままで回復していない。(※14) ここ2年ほどのインフレで、外食や娯楽を控える人が増えているのも要因と考えられている。

なお、アメリカ人就業者のメンタルヘルス(不安感、孤立感、落ち込み)の状態も、2022年11月時点で、コロナ中の2020年4月に比べ、ほとんど回復していなかった。(※15) なお、最大の懸念としてインフレ(36%)が挙げられている。

 
会社での支援が低下

社員のメンタルヘルスが悪化する中、逆にメンタルヘルスの支援をする企業は減っている。上記の調査では、「職場に社員の精神的幸福(emotional well-being)を支援するプログラムがある」と答えたのは、一年前の88%に比べ、2023年には62%に減少していた。

さらに、そうしたプログラムがあるという回答者のうち、「今、利用している」または「以前、利用したことがある」というのは22%のみであった。

38%が「メンタルヘルスに関して上司とは話したくない」と答えており、一年前(18%)の倍近くにのぼっている。半数は「メンタルヘルスに向き合うのに休みが必要だったが、申請しなかった」と答えている。

実際に、以前、報告したように、人員整理とともにコストカットを進める企業では、メンタルヘルス支援のような福利厚生を削っている

また、「過去半年で、現在の勤務先で仕事を続ける気が薄れている」という回答者では、社員のメンタルヘルスの支援で何が役に立つかという問いでは、「罪悪感なしに有休を取得できること」が55%で一番多く、次いで「リモートワークをできること」が45%、「健全なワークライフバランスを促進するよう管理職を教育すること」が44%だった。

※5. PerceptyX “Loneliness as an OrganiZational Crisis:” 2023年11月。アメリカの就業者2800人以上を調査。
※6. “EY Belonging Barometer 2.0”2022年。ブラジル、中国、ドイツ、イギリス、アメリカの就業者5000人を調査。
※7. MindGym, Longevity Forum 2023年
※8. Teesside University、2023年に複数の国の複数の業界のZ世代2000人を調査。
※9. Global Survey of Working Arrangements around the Globe: 2023 Report” 2023年4月~5月に、34か国で20~64歳のフルタイム勤務者4万2000人を調査。
※10. TimelyCare “Ready and Resilient: Class of 2023 Feels Stressed but Prepared to Enter the Workforce,” 2023年春に卒業するアメリカの四大・短大生を調査。
※11. SHRM “ Loneliness and the Power of Casual Collisions.” 2023年6月13日。2022年11月~12月にアメリカの就業者1,073人と、現在の勤務先に3年以上勤務の人事担当者1357人。さらに現在の勤務先に3年以上勤務のZ世代(1981年~2005年生まれ)407人を別途調査。
※12. SHRM Foundation 2003年3月に1000人を調査。
※13. The Conference Board 2023年
※14. 米労働統計局 “American Time Use Survey”
※15. LifeWorks, The Mental Health IndeX. 2022年11月に過去半年に雇用されていたアメリカ人5000人を調査。

 

職場での孤独対策

これまで見てきたように、周りに人がいる、又は、人と接していると孤独を感じない、ということではない。冒頭で紹介した調査でも、一人暮らしの人・そうでない人の間で、孤独を感じる割合は、あまり変わらず、一人暮らしの45%が「孤独を感じている」(内訳:a.「非常に孤独」10%、b.「いくらか孤独」35%)に対し、同居者がいる人の43%(a.10%、b.33%)が「孤独」と答えている。(※16)

人が孤独を感じるかどうかは、人といかに親密な関係を築いているか、つながっているかであり、周りの人間関係から心理的安定性やサポートを得られるかが鍵となっている。同じ職場でも、人間関係のニーズが満たされている人もいれば、孤独を感じている人もいる。

 
・職場の友人

2023年にSHRMが行なった調査では、社内に友人がいるかどうかが、社員の定着率に影響を与えることがわかっている。 (※17)

社内に親しい友人がいるという就業者の76%が「会社を辞めるつもりはない」と答え、25%は「友人が辞めたら、自分も辞めるかもしれない」というのだ。

「勤務先への帰属感が強い」という割合は、a.「社内に親しい友人がいる就業者」では80%、b.「いない就業者」では63%と、いる方が高い。また、「自分の仕事に満足している」という割合も、a. 86%、b.74%と同じ結果だ。

社内での親睦、つきあいを促進することが、社員の定着率向上につながるということだ。といっても、「職場でつながっている、帰属していると感じさせてくれる」のは、上司よりも同僚だということが調査結果からもわかっている。(※18) そこで、たとえば、リモートワークであれば、週に一度、新入社員とバーチャルコーヒーやランチをするように先輩社員に促すという企業もある。

 
・福利厚生としてのメンタルヘルス支援

社員の孤独感が生産性の低下や離職につながることが明らかになっており、企業としては、社員の孤独感やメンタルヘルスにプロアクティブに取り組む必要がある。

コロナ中に入学して、昨年、就職したアメリカの新卒を対象にした調査では、卒業生の92%が「企業は、福利厚生としてメンタル・情緒ヘルス支援を提供するべき」と答えている。36%は「就活において、そうした企業を就職先として優先する」と答えており、就職先を選ぶ上でひとつの指標にもなっているようだ。(※19) さらに、82%は「卒業後、そうした支援を利用するつもり」だという。

ただし、先の調査結果で見たように、そうしたプログラムがあることを知らない社員も多いので、まずは周知を徹底させることが第一だろう。

2021年に行われた調査でも、回答者の42%が「勤務先でのメンタルヘルス支援を利用したことがない」と答え、25%は「使うつもりはない」ということだった。(※20) 利用したことがないという回答者の25%は、その理由として「利用の仕方がわからない」「プライバシーが心配」「費用が心配」を挙げている。

 
・上司による声かけ、フィードバック

先の調査では、孤独と感じている社員の90%は「そのことを上司に伝えない」と答えている。(※21) 一方、36%は「上司などが個人的に声をかけてくれる」ことが、孤独感を減らし、帰属感の向上につながるともいう。

これは、仕事の進捗状況や出来栄えをチェックするということではなく、社員一人一人に共感を持って接するということだ。たとえば、上司自身が、仕事やプライベートで自分が面している課題やその経験を共有することでも、信頼を得られやすくな。

また、仕事に関しても、常にフィードバックを与えることで、「気にかけてるよ」というメッセージを伝えることができる。

「職場で価値を認められている」という社員は、「孤独でない」と答える割合が、そうでない人の倍であり、上司とよい関係を築いていると感じる社員は、「孤独でない」と感じる割合が、そうでない社員の1.4倍という調査結果もある。

 
・ERG(従業員リソースグループ)

以前、ERG(従業員リソースグループ)に関しては報告したが、同じような属性・特性を持つ社員が草の根的につながり、相互に助け合える自己啓発的なグループのことである。同じような趣味や、子育て、健康、ボランティア関心事を共有するグループもある。
 
個々の社員にとっては、ERGに属することで、同じような悩みを抱える仲間から精神的サポートを受け、孤独感を解消できるというメリットがある。ERGを通じて、日頃、出会わないような人と出会え、人間関係も広がり、社内で友人を見つけやすくなる。

 
・DEI/DIB

DEI/DIBの取り組みについても、以前、報告したが、とくに近年、加わった「帰属意識(belonging)」が孤独感に関連している。

アメリカの調査では、人種的マイノリティの間で孤独感が高いことがわかっている。 (※22) 先の調査では、体の不自由な人やLGBTQの就業者の31%が「職場で孤立していると感じ、帰属感を抱いてない」という。

アメリカでは、コストカットの一環として、人員整理とともに、DEIの部署やプログラムなどを閉鎖している企業もあり、コロナ後、事態は好転していない。アメリカの場合、LGBTQに関し法制化する州も出ており、政治的に迫害されていると感じる性的マイノリティは増えている。

先の調査では、46%が「他人と違っていても、自由に声を上げられる、意見を言える環境」において、帰属感が増すと答えており、女性を含むマイノリティ社員が、心理的安定性を得られ、歓迎されていると感じられる職場環境を築くことが肝要となっている。

DEIに関するプログラムだけでなく、たとえば、会議で、肩書などに関係なく、全員が意見を言うように仕向けるといった、小さな積み重ねも可能である。先のERGも、社内および社会で過小評価されているマイノリティが受容されていると感じられ、意見を言える場を築くために生まれたものだ。

※16. PerceptyX 同上
※17. SHRM Research Institute, “Workplace Romance & Relationships 2023 “ 2023年1月に632人を調査。
※18. Enboarder
※19. TimelyCare “Ready and Resilient: Class of 2023 Feels Stressed but Prepared to Enter the Workforce,” 2023年春に卒業するアメリカの四大・短大生を調査。
※20. LifeWorks, The Mental Health IndeX。2021年11月に過去半年に雇用されていたアメリカ人5000人を調査。
※21. EY 同上
※22. Cigna/Morning Consult 同上

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。